インタビュー

2012年5月号掲載

インタビュー『大山倍達の遺言』刊行にあたって

極真会館、大分裂騒動の真相

小島一志、塚本佳子

対象書籍名:『大山倍達の遺言』
対象著者:小島一志・塚本佳子
対象書籍ISBN:978-4-10-301452-2

――『大山倍達正伝』は伝説の空手家の謎を次々と明かしていった衝撃的な作品でした。あれから6年ぶりの新作ですね。

塚本 はい。でも実はこの作品の構想自体は、前作『正伝』を企画したのと同じ頃から持っていたんです。取材も同時期から始めていました。

――今作では世界最大の実戦空手団体・極真会館が、大山倍達総裁死後、どのように散り散りに分裂していったのかを克明に追っています。何故これを書こうと思ったのでしょうか。

小島 ぼくは雑誌や書籍の編集の仕事を通じて大山総裁と懇意にさせていただいていました。そして総裁が亡くなった直後から、後継者に指名された松井章圭新館長を「支持する」と公言してきました。その結果、分裂騒動には当事者として巻き込まれていくことになりました。が、ある時期から、関係者の多くが、この騒動をなかったことにしようとしているのを強く感じ始めました。それぞれが自分たちに都合のいい正統性の物語を作って、これまでに起きたことを封印してしまいたい、極端な例では大山総裁に触れることさえ避けたいと。それは総裁に対する冒涜だと思いました。事実を事実として歴史に残さねばならない、それが使命だと考えました。

――しかしこの作品では、お二人は著者としての主張をほとんど出さずに、ひたすら事実だけを記し続けていますね。

小島 ドキュメントであっても、著者の考えを一切反映しない完全に客観的な文章を書くのはもちろん不可能でしょう。ですが、今回はまず何よりも事実として確証のあることだけを書こうと努めました。

塚本 ひとつの事実について複数の人間の証言が食い違った場合は、その両方を書いて、判断は読者に委ねました。

――それにしても、今回もまたすごい取材量です。集めた資料も膨大で、重要な「支部長会議」などでの丁々発止のやりとりは臨場感たっぷりに再現されています。

小島 ぼくには大山総裁が亡くなった時から、「何かが起きるだろう」という予感がありました。そこで異例のことなのですが、極真会館の主要な会議などに、うちの編集制作会社のスタッフを、オブザーバーとして出席させてもらい記録していたんです。それが役に立ちました。

――そして次々と衝撃の事実が明らかになっていきます。

塚本 松井館長がK‐1参戦の真相を語ってくれましたが、これは本書で初めて明らかになった事実です。また分裂騒動を陰で操ってきた三瓶啓二氏(支部長協議会派・元代表)と総裁の遺族とのスキャンダルは、協議会派という組織を根底から揺るがすほどの大きな問題だったのですが、これまではほんの一部の関係者にしか知られていなかったものです。

小島 支部長協議会派が「極真会館」から「新極真会」へと名前を変えた理由は何なのか、その真相が書かれたのも、本書が初めてです。商標権の問題が絡んでいるのですが……。

――ちなみに前作『正伝』は624頁の超大作でしたが、今回の『遺言』も、なんと528頁に及んでいます(笑)。

小島 まあ、量はともかくとして、この作品を書くのは、ぼくにとっては精神的にとても辛い作業でした。ぼくは大学時代から極真空手を学んでいましたが、昔からよく知っている尊敬していた先輩たちが、聞くにたえない汚い言葉で罵倒し合い、中傷し合う姿を描かねばならなかったからです。塚本が担当分を最初に書き終えてから二年間、ほぼ何も書けませんでした。結局、うちの会社の業務は副代表の塚本に任せっきりで、都合一年もハワイに滞在して執筆を進めていくはめになりました。しかしこれを書き切ったことで、あの分裂騒動を「歴史」として記録することができたと思います。分裂劇に与(くみ)した人たちは全員が、大山倍達総裁の遺志をないがしろにした裏切り者だと、ぼくは考えています。怒りは未だに消えていない。そして、そんな怒りを抱えていることでまた自己嫌悪に陥る。だけど、ぼくたちが書かなかったら、歪曲されたかたちで曖昧にしか残らなかったはずの分裂劇が、歴史として記録されることになりました。人類の歴史においては、さまざまな組織で同じようなことが繰り返し起きてきたはずです。これが人間の「業」なのかもしれない。ぼくたちが描いたのは、人間存在の普遍的な姿だったのでしょうね。

 (こじま・かずし つかもと・よしこ)

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